はじめに

近年、発達障害や学習に困りごとを抱える子どもたちに対する支援のニーズが高まる中で、注目されているのが「個別指導塾×発達支援」という新たな学びの場です。これは、従来の学習塾と福祉的な療育支援の良いところを掛け合わせたようなスタイルで、教育業界でも新たな選択肢として広まりつつあります。

この記事では、「個別指導塾×発達支援」という職場の特徴、働き方、必要なスキル、そしてどんな人に向いているかを解説します。

「個別指導塾×発達支援」とは？

「個別指導塾×発達支援」とは、発達に特性のある子どもや学習の遅れが気になる子どもたちを対象に、一人ひとりのニーズに合わせた個別の学習支援を提供するスタイルの教育サービスです。

このタイプの塾は、学習の遅れだけでなく、「集中が困難」「じっと話を聞くのが苦手」「板書が苦痛」などの認知特性や発達特性にも配慮して支援を行うことが特徴です。一般的な学習塾が成績アップを主な目的にしているのに対し、「個別指導塾×発達支援」は、子どもが「わかる」「できる」と実感しながら、安心して学べる環境を整えること、そして子ども達1人1人に合わせた学びを提供することを重視します。

また、福祉分野のノウハウや療育的なアプローチを取り入れていることが多く、教育と福祉が融合した新しい職場環境といえるでしょう。

職場としての特徴

1. 支援対象の幅が広い

発達障害と一口に言っても、その特性や困りごとは多種多様です。例えば、ADHDの子どもは注意が散りやすく、1つの課題に集中することが難しい傾向があります。この場合、時間を短く区切って達成感を感じさせる工夫が有効です。一方、ASDの子どもには明確な手順や視覚的な補助（スケジュール表・指示カードなど）を用いると理解しやすくなります。

このように、「誰にでも効く教え方」は存在せず、子どもの認知特性や発達段階に応じた工夫が欠かせません。

2. 教科指導だけじゃない

もちろん国語や算数などの学習支援も行いますが、それだけにとどまりません。「椅子に座っていられるようになった」「順番を待てるようになった」といった行動面での成長も、支援の大きな成果として捉えられます。発達支援の視点があるからこそ、こうした“非認知スキル”にも目が向けられるのです。

3. チームで支える姿勢がある

一人の講師がすべてを背負うのではなく、教室全体で子どもの様子を共有し、必要に応じて支援方法を話し合います。例えば、「最近Aくんが授業中に立ち歩くことが増えた」といった変化に気づいたスタッフがいれば、それを共有し、対応策を話し合う場が持たれます。このようなチーム支援体制は、職員にとっても安心できる職場づくりに繋がっています。

働き方の特徴

1. シフト制・パート勤務も多い

フルタイム勤務はもちろん、午前中は別の仕事、夕方は塾という「ダブルワーク」にも対応できるよう、柔軟な働き方ができる職場が多いのも魅力です。主に平日の夕方〜夜、または学校が休みの土曜日や長期休暇中の昼間に業務が集中するため、学生や主婦（夫）の副業にも向いています。

2. 指導時間は基本マンツーマンまたは少人数

多くの個別指導塾では、講師1人に対し子ども1〜2人の体制が基本です。集団指導が苦手な子どもにも対応しやすく、落ち着いた環境でじっくり向き合えるのが特徴です。一人の子どもと丁寧に関わりたい人にとって、非常にやりがいのある環境といえるでしょう。

3. 指導マニュアルや研修も充実

福祉や教育の専門資格がない人でも働けるよう、独自のマニュアルや研修制度を設けている企業も増えています。「未経験だけど子どもに関わる仕事がしたい」「発達支援に興味がある」という人にとっても、スキルを身につけながら働けるチャンスがあります。

保護者対応にもやりがいが!?

子どもの支援だけでなく、保護者との連携も重要です。ときには「家庭では勉強に全然集中できなくて…」「言葉でうまく気持ちを伝えられないんです」といった悩み相談を受けることもあります。

その際、ただ「よくあることですよ」と流すのではなく、子どもの様子を丁寧にフィードバックし、できていること・頑張っていることを具体的に伝えると、保護者の安心感にもつながります。

一方で、専門的な診断や医療的判断が必要な場合は、無理に応えようとせず、然るべき機関への相談を提案することも大切です。専門職ではない立場としての“線引き”を意識することもまた非常に重要です。

働く前に意識しておきたいこと

「子どもが好き」だけでは務まらない面もあるのが、この仕事の奥深さです。思ったように支援が進まなかったり、言葉が通じなかったりする日もあります。それでも、焦らず寄り添い続ける姿勢が何よりも大切です。

また、完璧な支援者である必要はありません。むしろ「一緒に考えていこう」という謙虚なスタンスが、子どもにも保護者にも安心感を与えるのです。

向いている人とは？

・子どもの成長を長期的に見守りたい人

短期間で結果を求めるのではなく、「その子なりのペースで育っていく姿」を喜べる人は、この職場にぴったりです。目に見える成果だけではなく、心の変化や行動の小さなステップに気づける人が向いています。

・教えることより「支えること」に価値を感じる人

「正解を教える」よりも、「一緒に考える」「できるまで寄り添う」姿勢が大切です。教師というよりも伴走者のような役割が求められるため、相手の立場に立って考えられる共感力がある人に向いています。

・柔軟性と創造力がある人

マニュアル通りに進めるだけではうまくいかない場面が多々あります。たとえば、「今日は疲れて集中できなさそうだな」と感じたら、無理に勉強を進めず、リフレッシュの時間を取り入れるなど、臨機応変な対応が求められます。

・ 保護者とも丁寧に関われる人

支援の対象は子どもだけではありません。保護者の悩みに耳を傾け、一緒に子どもの成長を喜べる関係づくりも大切です。家庭との連携に前向きに取り組める人は信頼されやすい存在になります。

キャリアとしての可能性

「個別指導塾×発達支援」は、単なるアルバイトや副業にとどまらず、教育・福祉の両分野にまたがる貴重な実務経験を積める職場です。将来的に、教員、保育士、児童発達支援管理責任者などを目指す人にとって、非常に有意義なステップとなります。

また、経験を重ねることで、研修講師、指導計画の作成者、教室運営スタッフなど、専門性を活かしたキャリアパスも描けます。今後さらにニーズが高まる分野であり、継続的な学びと成長が見込める環境です。

おわりに

「個別指導塾×発達支援」は、ただの塾でもなく、ただの福祉施設でもありません。その子にとって最適な学びの形を、一人ひとりに合わせてつくりあげていく、いわば“オーダーメイド”の支援現場です。

働く側にとっても、毎回違う子どもと向き合いながら、自分自身の支援力や人間力が問われる、奥深い仕事です。そしてその分、子どもが「わかった！」「できた！」と笑顔を見せた瞬間の喜びは、何ものにも代えがたいものがあります。

「子どもとじっくり関わりたい」「発達支援に関心がある」「教育と福祉の間で働いてみたい」という方には、まさにうってつけの職場といえるでしょう。